大判例

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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)1768号 判決

控訴人

西谷博

右訴訟代理人弁護士

松本茂

被控訴人

佐竹清一

右訴訟代理人弁護士

岡本久次

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴人

主文と同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

(本案前の主張)

一  控訴人の主張(控訴の追完について)

原判決は平成元年二月一〇日言い渡されたが、公示送達の方法により送達され、同月二八日には右控訴期間が経過した。しかし、被控訴人は公示送達の要件が欠けていることを知りながら故意にそれを隠し、裁判所を欺罔して右確定判決を騙取したものであり、控訴人は「控訴人の責に帰すべからざる事由により」右控訴期間を遵守することができなかったのである。すなわち、

本件訴訟は、昭和六三年一一月八日、大阪地方裁判所岸和田支部に提起されているが、訴状送達から右判決の送達に至るまで送達はすべて公示送達の方法により行われている。ところで、被控訴人の訴訟代理人である岡本久次弁護士は右提訴の数日前である同月四日、控訴人の事務所(大阪市浪速区えびす本町一丁目八番八号)宛に、被控訴人が控訴人に対し申立てた別紙物件目録二記載の土地(以下「本件二の土地」という)についての処分禁止の仮処分決定書の写しを送付してきて、控訴人に右土地の売却方を申し入れており、またその後同月中旬ごろにも、右土地を控訴人の委託を受けて管理していた関西ハウジングこと宍戸節也(以下「関西ハウジング」という)及び控訴人は、被控訴人から右土地の売却方を申し込まれている。このため、控訴人としては、まさか被控訴人側が裁判所を欺いてまで公示送達の方法により本訴を進行させているとは夢にも思わなかったのである。

ちなみに、控訴人は本訴が提起される以前から本件二の土地に金網で囲いをしたほか、看板を立てて、右土地は関西ハウジングが管理していることとその連絡先を明示していたのであり(被控訴人やその代理人はこれにより前記連絡先を知ったものである)、また住民票さえ取れば控訴人の住所は容易に知ることができたはずである。

控訴人は、平成元年八月二三日ごろ、右土地の金網囲いが壊されていることを知り、不審に思って同月三一日、右土地の登記簿謄本を取り、初めて被控訴人に所有権移転登記がなされていること及び原判決の存在を知ったのである。

二  控訴人の主張に対する被控訴人の答弁

被控訴人が裁判所を欺いて本件訴訟につき公示送達の許可を得たことは否認する(被控訴人が公示送達の申立てをするに至ったいきさつは〈証拠〉参照)。ただ、被控訴人としては、実体関係さえ明らかになればよいので、控訴人の控訴の追完については特に争う意思はない。

(本案の主張)

一  請求原因(被控訴人)

1 被控訴人は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件一の土地」という)を所有している。

2 控訴人は、本件二の土地につき所有権移転登記を経由している。

3 しかし、本件二の土地は昭和五〇年七月、控訴人により登記簿及び地積図上作り出されたものにすぎず、右土地は被控訴人所有の本件一の土地の一部である。すなわち、被控訴人は、そのころ控訴人から、控訴人所有にかかる土地を測量するにつき、被控訴人所有土地(本件一の土地)と控訴人所有土地の間に水路が存在していたため、確認立会とともに、その証明のために控訴人作成の測量図に署名押印することを求められて、これに応じたことがある。

控訴人は、これを利用して別紙図面の橙色の部分を水路であるかのように水路の位置を勝手に変更して(青色部分が水路である)、被控訴人所有土地(本件一の土地)を控訴人所有土地に取り込んだ図面を作成し、その旨法務局に登記申請手続きをした。

もちろん、現地においては、水路は別紙図面青色部分記載のとおり、本件一の土地と被控訴人所有土地の間に存在しており、右図面上、本件二の土地と記載されている南西側には、水路の管理者である大阪府が設置した明示杭も存在している。

4 よって、被控訴人は控訴人に対し、本件二の土地につき、真正な登記名義回復を原因とする所有権移転登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否(控訴人)

1 請求原因1、2の事実は認める。

2 同3の事実は否認する。本件二の土地は控訴人所有の「貝塚市久保字小松原三一一番宅地154.95平方メートル」(以下「三一一番の土地」という)から分筆されたものである。被控訴人は、控訴人が図面上で勝手に水路の位置を変更して、被控訴人の所有土地を控訴人所有土地に取り込んだと主張するが、被控訴人の所有土地と控訴人の所有土地との間には国有地の水路敷があり、被控訴人主張の行為により土地の所有権を取得することは不可能である。また、被控訴人の主張は、本件二の土地が被控訴人所有の本件一の土地の一部であるというにすぎず、境界確定の訴えであればともかく、これを理由として真正な登記名義回復を原因とする所有権移転登記請求をすることはできない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一本案前の主張について

原、当審における本件記録によれば、本件訴訟は昭和六三年一一月八日に大阪地方裁判所岸和田支部(以下「岸和田支部」という)に提起され、訴状及び第一回口頭弁論期日(同年一二月一六日午前一〇時)の呼出しは、訴状に控訴人の住所として記載されていた「堺市桃山台一丁三番二五―三〇二号」以下「桃山台の住所」という)に宛て送達が試みられたが、「あて所に尋ねあたらず」として、右各書面は同月二一日郵便局から岸和田支部に還付されたこと、そこで、被控訴人の代理人である岡本弁護士は、同年一二月六日、同法律事務所の事務員である戸口宗之作成の報告書(桃山台の住所には控訴人は居住していない旨の記載がある)、桃山台の住所には控訴人の住民登録はなされていない旨の同月五日付堺市長の証明書及び本件二の土地の登記簿謄本(その甲区一番の昭和五〇年五月二二日付所有権移転登記の控訴人の住所は「桃山台の住所」と記載されている)を添付して公示送達の申立てをし、岸和田支部は昭和六三年一二月七日これを許可し、同日、訴状等のほか、第一回口頭弁論期日(平成元年一月二七日午前一〇時に期日変更)の呼出状を公示送達の方法で送達し、右第一回口頭弁論期日において、証拠調べを終えた上、弁論を終結し、平成元年二月一〇日午後一時に原判決を言い渡し、同日付をもって右判決も公示送達により控訴人に送達されたこと(控訴期間は休日の関係があり、同月二七日までとなる)控訴人は同年九月六日、本件控訴を当裁判所に提起したことをそれぞれ認めることができる。

他方、〈証拠〉によれば、控訴人が桃山台の住所に住民登録をしていたのは昭和四九年六月一日から昭和五一年四月一一日までであり、その後控訴人は、同日大阪府南河内郡狭山町大野台三丁目五番二二号に、昭和五六年一二月二七日には大阪府富田林市藤沢台一丁目三番三〇七―四〇三号に昭和六三年三月二一日兵庫県芦屋市打出小槌町一四番一〇号に、次いで平成元年八月二四日に肩書の現住所に各転居し、それぞれその旨住民登録をしていること、本訴が提起される直前の昭和六三年一〇月三〇日、控訴人と昭和六二年三月以降控訴人の委託を受けて本件二の土地を管理している関西ハウジングは、被控訴人の息子も立会の上で、右土地の周囲に金網のフェンスを設置したのであるが、その際かねてから被控訴人が希望していた右土地売却方の申し入れが改めて右被控訴人の息子からもなされたこと、右土地には関西ハウジングが管理している土地であることを示す看板が立てられており、それには関西ハウジングの電話番号も記載されていたこと、また昭和六三年一一月五日ごろには、被控訴人の代理人である前記岡本弁護士から、被控訴人が控訴人を相手方として申立てた右土地についての昭和六二年一二月一〇日付処分禁止の仮処分の決定書の写しが控訴人に送られてきたのであるが、その宛先は「大阪市浪速区えびす本町一丁目八番八号」であったこと、控訴人が本件訴訟のことを知ったのは、平成元年八月二三日、関西ハウジングが本件二の土地に行き、右土地のフェンスが取り払われているのを見て、控訴人にその旨連絡したため、同月三一日、控訴人が大阪法務局岸和田支局で右土地の登記簿謄本〈証拠〉の交付を受けた結果、被控訴人が原判決に基づき、同年三月七日付で被控訴人名義に所有権移転登記をしていることが分かったためであること、そこで、控訴人は本訴における控訴人の訴訟代理人である松本弁護士に本件訴訟の遂行を委任し、同年九月六日、本件控訴が提起されたことが認められる。

以上認定の各事実によれば、被控訴人が本訴を提起する直前のころには、被控訴人(又はその代理人)から控訴人に対し接触があり、また被控訴人が控訴人に対する本件訴状等の送達場所を知る手掛かりもなかったわけではないのであって、控訴人としては、本件訴訟が提起された昭和六三年一一月から原判決が言渡・送達された平成元年二月当時、本訴が被控訴人から提起され、しかもそれが公示送達の方法により進行していると考えることは到底不可能な状況にあったということができるばかりでなく、控訴人は転居の度に、その旨住民登録もしていて、特にこの点について落ち度は見当たらないのであり(住所の変更登記をしていないことについては、登記が権利変動の対抗要件にすぎず、しかも住所の表示は登記名義人を特定するため必要とされるにすぎないのであるから、控訴人が右住所変更登記をしていないことをもって、本訴の送達関係につきこれを控訴人の不利益に扱うことはできない)、控訴人の場合は「其ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リ」原判決の控訴期間を遵守することができなかったというべきであり、控訴人は平成元年八月三一日になって初めて原判決の送達の事実を知り、同年九月六日に本件控訴を提起したというのであるから、控訴期間の懈怠は追完され、本件控訴は適法といわなければならない。

二本案の主張について

1  本件一の土地が被控訴人の所有であること、本件二の土地につき控訴人が登記上所有名義を有していることは当事者間に争いがない。

2  被控訴人は、本件二の土地は被控訴人所有の本件一の土地の一部であるにもかかわらず、控訴人が図面を勝手に偽造して登記申請をし、右二の土地を控訴人名義にしたと主張するのであるが、〈証拠〉によれば、本件二の土地は控訴人所有にかかる「三一一番の土地」から昭和五〇年七月一四日に分筆されたものであることが認められ、しかも右土地を被控訴人が取得したことを認めるに足りる証拠はない。

被控訴人の主張するところは、右のとおり、本件二の土地として控訴人が所有権を主張し、占有している土地部分は被控訴人所有の本件一の土地の一部に当たるというにすぎず、本件二の土地の登記を被控訴人名義にすることを求める根拠とはなり得ない。

被控訴人の右主張を前提とする限り、その権利主張を実現するためには、本件二の土地であると控訴人が主張している土地部分が被控訴人の所有であること、すなわち被控訴人所有の本件一の土地の一部であることの確認を求めるほかはない。

3  したがって、被控訴人が控訴人に対し、本件二の土地につき、真正な登記名義回復を原因とする所有権移転登記手続を求める本訴請求は理由がなく失当というべきである。

三結論

以上の次第であって、被控訴人の請求を認容した原判決は不当であり、控訴人の本件控訴は理由があるから、原判決を取消して被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川恭 裁判官福富昌昭 裁判官松山恒昭は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官石川恭)

別紙物件目録〈省略〉

別紙地積測量図〈省略〉

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